はじめての柿喰う客─『恋人としては無理』感想

初めて劇団柿喰う客の作品をみてきたよ~楽しかったよ~~って日記。『恋人としては無理2021』in仙台、行ってきました。

柿喰う客さんの作品は戯曲は何本も読んでいるし、映像は何作品かみているけれど生で観劇したことはなく、いつか劇場に行きたいな~~と思っていた。だからといってまさか初観劇が仙台になろうとは夢にも思っていませんでした。中屋敷さんの脚本で記憶に新しいものといえば昨年の黑世界の『求めろ、捧げろ、待っていろ』だけれどあれは演出は末満さんだから別ものですね。

切欠は舞台『刀剣乱舞』无伝で素敵なお芝居をみせてくださった牧田哲也さんが出演されていたこと。情報解禁が公演からおよそ一カ月前だったのでびっくりしました。まあでもその辺は西田大輔氏に鍛えられており初日の一週間前に情報解禁されて福岡から東京に日帰りしたこともあるので大丈夫(ではない)。結構ギリギリまで行くかどうか迷ったのですが、東北行ったことないから行ってみたかったのと同日に友人も来るというのとスケジュールがどうにかできそうだったのとなんだかんだ条件が重なったので行ってきた。なにより、柿喰う客の作品に出演されている牧田さんを観たい観たいと6月からずっと言っていたし。結果、こうして御縁を頂けてよかったです。

初めての仙台は観光もロクにしないまま日帰りになっちゃったけど当日は大寒波に見舞われ寒さは堪能したし、ずんだ餅も牛タンも食べたし、公演は楽しかったのでヨシ!

 

劇場となるパソナシアターは仙台駅から三駅、駅に出るとすぐ目の前なのでとっても便利で助かりました。そして受付がまんま地方小劇場のそれで久しぶりの感覚にテンションが上がった。折り込みチラシも貰うの超久しぶり!!地元小劇場に何回かお邪魔していた頃を思い出した。

土曜日の公演をマチソワしたのですが、二回見てよかったです。兎角衝撃的すぎて、一回目はあまりお話を咀嚼できなかった。とにかく、凄いものをみたな……と思いながら劇場を後にして、二回目をみて、物凄い芝居だなと。

 

以下感想。そんなに長くないし、書きたいことを書きたい順に書いているので読みやすくもないのですが、記録としてね……。というか今週が怒濤の観劇週なので言葉に残せるうちに残しておかなければと思った。

 

開幕、直後言葉の濁流がとんでもない照明とともにわーって襲ってきてうわあ柿喰う客だ~!!!となる。地方の小劇場にありえん大量の照明が吊ってあって劇場に入った瞬間ちょっと笑いそうになった。あの量の照明が点灯した時の迫力たるや。凄いですね。Qが地獄みたいになってそう。

肝心の台詞は早すぎて割とすぐに聴きとるのを諦めてしまったのですが初手このインパクトを浴びせて客席を一気に引きずり込むのうまいな……と思った。大量のレトリックを一気に浴びるので、柿をみにきたんだ~!!とテンションが上がるのは確か。それから変なタイミングで自己紹介、ああ、コレコレみたいな。

あとシンプルにこのスピードで台詞を言い熟せている役者さんたちが凄い。マイクがないのに台詞が通ること通ること。凄い。この一群の台詞は後半でもう一度繰り返すので聴きとれなくてもさしたる問題がないんですね。なるほど。

混乱しつつも「ナザレのイエス」とか「十二人の弟子」とかそういうワードは耳が拾ってくれたので「恋無理」ってそういう話なの!?という第二波の衝撃。事前のプロモーション的に全然そんな感じじゃなかったのでそこでもびっくり。ユダりん、スーパーミラクルかわいい。完全に余談ですがついこの前太宰の駆け込み訴えを読み返したので最近ユダの話によく触れるな……などと思った。そこまでの衝撃がでかすぎてユダりんのラップ(その1)とツアコンに連れられてくる一向にはあまり驚かなくなっていた。麻痺している。

ラップによる導入でエルサレム入場のところに話を持ってくるわけですが、十二使徒のはなしをするのに人足りなくない?という疑問を抱いたのは役者さんがぬるりと役を入れ替わった後でした。今更ながら気が付いたってやつですね。このぬるぬる役を入れ替えながらどんどん話が進んでいくのが凄く新鮮だった。一人が何役もするし、何人もで一役をする。前者はともかく後者がかなり新鮮でした。ミュージカル的なのかな。ミュージカルだとその人しか知りえないはずのキャラクターの心情を何人もが共有して歌いあげることはよくあるから。役を演じるというよりは作品そのものを演じているという感覚というか。それはそうと「ピカ!」っていったあとにぬるりとキレ気味のペトロに転身できるのはどうかしているけれど。全編通して加藤ひろたかさんのカメレオンぶりに翻弄され続けた印象。

そこ以外にもちょこちょこ中屋敷さんの演目ってミュージカルっぽいところがあるなと思った。通常の会話ではなくて音のリズムを優先するところとか。あと先述した「冒頭のセリフが後半で登場する(しかも冒頭とは全然違う温度感で)」というのは、まさにリプライズですね。

十二使徒がつぎつぎ出てきて自己紹介する場面ではどんどん役者さんが入れ替わり立ち代わり、濃いめの味付けで今回の作品のそれぞれのキャラクターの立ち位置のようなものを説明してくれるのは圧巻でした。一人が複数役しているので、こっちの役にみせかけて実はこっち!みたいな笑いのフックになるのが面白かった。後半の居酒屋のシーンの牧田さんとか。あ、タダイなんだ!?という笑いが来る。

なんだかんだ作中一番テンションが上がったのはホストエルサレムのシーンでした。仕方がない。人間の身体はシャンコ聴くとテンションが上がるようにできている。しかしホストエルサレムって名前どうなんだ。歌舞伎にあるホストクラブの店名がホスト「歌舞伎町」みたいなものだよな……。ホスト「中州」。ホスト「すすきの」。ホスト「エルサレム」。これでもかと設置してある照明をふんだんに使ってシャンパンコール、楽しい。しかもやたらクオリティが高い。アフタートークのときに裏でひろたかさんがずっと練習しているとお聞きして納得しました。シャンコもかなり独特なリズム感で小気味いいですよね。中屋敷さんが初めてシャンコに触れたとき「こんな日本語があるんだ!」と驚いたと言っていましたが、それを聞いたときにはあなたがそれを言うのかと思ったり。体入ホストさんの源氏名のくだりは日替わりなのかな。ソワレで牧田さんが耐えきれず吹き出していてフフフとなりました。

あとはゆだりんオンステージ!照明の色もゆだりんもかわいい。全体を通して出番でいうとそこまで多くないのにここぞというところで存在を発揮するゆだりん。一番笑ったセリフもゆだりん関係でした。ピラトの名前当てからの「日本人ならそんなもんです」、何気にツボだった。それはそうなのよ。みんなでわいわいしているところにあまりいないからそんなに出番が多く感じないのか。そういえば冒頭で「友達いない」って言ってたね。表情もそんなに豊かではなかった印象。唯一、いえすくんにキスした後笑みを浮かべていたのがはっきりとみてとれた表情でしょうか。あそこ照明も相まってとても綺麗でゾクゾクした。ゆだりんをメインで演じていた斎藤明里さん、最初出てきたときに足が細すぎてびっくりしました。スタイル良すぎ。どこかでお名前を拝見した覚えがあるなと思ったら、文ステですね!ナオミちゃん!ナオミちゃんが出ているのは一作目を映像で一度みたきりだったので気が付かなかった。

一回目と二回目で随分印象が変わったのはペトロ。というか一度目は暫くの間ペトロとヨセフも女になっているのに気が付かないままみていたのでこの二人周辺のシーンの印象は随分変わりました。ペトロについては序盤の引率をしている場面から女性的な動きはしていたのだけれど、そういうキャラクター付けの男性だと思ってみるのと男性が演じている女性だと思ってみるのとだと違う。加藤ひろたかさんのペトロ、どうしてあんなに色気があるんでしょう。一度女性と認識してみると凄く好きなタイプの女性の造形をしていたことに気が付く。言動のひとつひとつが目を引く。どうしようもないのに好きな男性から離れられず傍にいるし第一使徒として毅然と振舞おうとしていてもそれは表面張力でギリギリ零れないようにしているコップに入った水みたい。「自分の気持ちに押さえつけられるほど弱くなかったんだよ自分の気持ち」ってセリフが大変印象的でした。それからメインでペトロをしていた加藤ひろたかさん役の切り替えがうますぎませんか。すっごく印象に残っているのがフィリポの財布を没収しようとして元カノと揶揄されたあとのシーン。「そういう……なんだ?」の「なんだ?」の言い方の凄みもすごかったし、その後パッと小ヤコブに切り替わるのがとんでもない。なにより、小ヤコブの長台詞を言い終わった後、ペトロに戻って舞台中央に蹲り顔をあげた時髪の隙間から覗いた目に鳥肌が立った。一瞬であそこまで変われるものか。情緒どうなってるんだ。とんでもないなと思って観ていました。

そして今回の観劇のきっかけになった牧田さんのお芝居。凄く素敵でした。牧田さんがメインで演じていたのはやっこさんことヤコブ。二番弟子で、ペトロの幼馴染で、ヨセフの兄という作中の女性関係に近い場所にいるひと。いえすくんに対してフラットな立ち位置でいるのかなっと思っていたら最後に自分で言ってましたね。私は作品全体を通して、結構泥臭いというか人間臭いのがヤコブだなという風に感じて。いえすくんに傾倒していないのも含めて。そういった印象が牧田さんのお芝居ありきのものなのだろうなと。私は柿喰う客のお芝居の「そんなんあるかい!」みたいなぶっとんだ舞台設定に日常生活ではおよそしないような話し方でセリフを回す、虚構に虚構を重ねたみたいな空間のなかなのに、ああ、こういうことあるよねとかこういうものだよねってどうしてだか共感できてしまうみたいなところを魅力に感じていて。それと牧田さんの今回の役どころとお芝居が凄くマッチしていたというか、その「どうしてだか共感できてしまう」所以が牧田さんのお芝居にあったのかなと感じた。きっと、セリフ回しが一番感情的なんだとおもいました。最後の方のペトロと話すところとかヨセフと話すところとか、最後の独白とか。ヨセフとのシーンは、ヨセフがどんな人なのかを最後の最後ではじめて出すのが狡いなと思いました。ヨセフが吃音になっているのは生まれつきともとれるしいえすくんが死んでしまったショックともとれるし。「生きろ」って結構強くて残酷な言葉で、他の使徒たちの状況からも結構周囲が絶望的なのに、それを言い切らないといけないヤコブの苦しさと優しさが見えるお芝居が凄く好きだった。独白の場面ではそれまでみえそうでみえていなかったヤコブ個人の人間の輪郭がはっきりするようで胸がウッとなる。そんな感情を抱えながらペトロやヨハネ、いえすくんの側に居たのだなと。それから最初のツアコンの動きに戻るのが、余韻を残す終わり方でいいなあと思いました。それとは別に柿喰う客のリズムで芝居をする牧田さんは物凄く新鮮で楽しかった……。「柿喰う客の牧田さん」のお芝居がみられたことが本当に良かった。

 

エス十二使徒の物語って割と擦り倒されたテーマだと思うのですが、2008年の作品にも拘わらずそれを全く感じない新鮮な面白さ。フランスでの演劇祭に来る外国の人に見せるためにつくった作品ということで、日本語のレトリックをふんだんに詰めてあるとおっしゃっていました。それが嵌ったんだろうな。それから男女混合のギミックと配役の塩梅と。恐らく女性の役を全部女性がやってしまうと生々しすぎてしまうような気がして。マチソワ間に戯曲にざっと(本当にざーっと)目を通したのですが戯曲読んでもこの本からあの芝居が組みあがるの割と意味が分からなくて凄い(あとトムハンクスとダヴィンチは普通に脚本上にいて笑った)(突如現れる劇団代表・脚本演出と看板俳優、どうかしている)。密度が高すぎて70分がものすごく長く感じました。中屋敷さんの頭の中はどうなっているのだろう。