英雄になれなかった13番目の王子様─劇団四季版アナ雪感想

これも感想書こう書こうと思って先送りになってたやつ。観劇事体は9月半ばだからもう記憶がところどころあいまいになっています……。Twitterのやつをもとに書き起こしたけど……感想はやっぱりみてすぐ書かないとな~……。
最初の会員抽選のときに「折角だしどっか応募しとくか~」のノリで応募してたら当選してたチケットです。最初みんなが当落に沸いている時間にはまだチケット一覧に現れてなくて、翌日謎の引き落としがあり大慌てしながらもう一回確認したら当選してた。適当に二連でとってたからTLで「行きたいひと~」したら平日なのに一緒にきてくれたノリの良いフォロワー、大好きです。十列目のセンブロだったからめっちゃ見やすかった。

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アナ雪事体は1は日本語を2回英語3回ずつくらいみてるけどさすがに曲はだいたい覚えてます!って感じ。オタクを名乗れるほどではないが好きな映画のひとつ。2は日本語英語チェコ語でそれぞれ1回ずつ。完全に余談だけど、F2はチェコ語吹き替えが初見だったりする。公開が留学中だったから留学先で英語版みよ~て思ってたら友人が間違えて吹き替え版のチケット取ってたらしく全編チェコ語(勿論字幕なし)で一回みた。
今回予習で映画両方とフローズンハート(アナとハンスメインのスピンオフ小説。ハンスファン必読)をちょっと読み返したりしました。

 

 

タイトルの通りハンスに寄った話をします。作品全体の感想などは後半に。


ミュージカル版はアニメーションから補完されたものと削がれたもののバランスがちょうどいいなというのが全体的な印象。それはハンスに関しても例外ではなく。ソロナンバーが与えられて(しかも二回もリプライズされてる)ハンス・ウェストガードという人が伝わりやすくなったのかなと。このフルネームすらアニメーションミュージカル共に未登場なわけだけど……。
アニメーション版だとこれまでのディズニーのアンチテーゼ的なヴィランの側面が強かったように思います。反してミュージカルはハンス個人にアニメーションよりスポットがあたるので家父長制が生み出したヴィランであること、彼もまたエルサやアナと同じく「抑圧されていた人」だったことがちょっとわかりやすくなったかなと思います。

ハンスは最初にアナと喋ったときから徹底的に好青年であるように自分を演じているけど、初登場時はその限りではないようにみえる。「生まれて初めて」でアレンデールに入国した時キョロキョロ城内を見回すハンスは目が輝いてみえたから、生まれて初めてひとりで他の国に出た喜びは心からのものなんだと思った。ハンスにとっても「生まれて初めて」の瞬間……。生まれたときから上に12人の兄と自分に全く何の期待もしていない父に囲まれていて、うだつのあがらない生活を続けてきたハンスがようやっと一人でサザンアイルズから出られた瞬間。
「生まれ~て~は~じめ~て」の歌詞がアナの独唱から重唱に変更されていたのがすごいよかった!アレンデール城を訪れたすべての人に生まれて初めての瞬間が訪れているんだっていうのが伝わる構成、めっちゃいい。
AFH(フローズンハートの略称)にハンスがアレンデールにくるまでの経緯とか心象がハンス視点で書いてあるのでめちゃめちゃ感情移入してしまう。

アナとハンスが最初に話すシーンで、アナが自分のことをスペアと称する場面があります。たしかアニメーション版ではなかったセリフだと思うんだけど……。追加台詞のはず。
スペアという単語はハンスにとっても過敏に反応せざるを得ない言葉。AFH読んでるとハンスが自分をスペアですらないと自嘲気味に言うシーンがあるので、アナの言葉を一体どんな気持ちで聞いてるんだろう……と想いを馳せたり。
ハンスのソロナンバー、ハンスオブサザンアイルズで男性アンサンブルがハンスの後ろにずらりと並ぶのがとっても印象的だった。兄の影………。

「とびら開けて」でハンスが切磋にアナに合わせてアナの「理想の人」になることができたのは、ハンスがこれまでの人生でずっと兄たちの機嫌を損ねないようにずっと自分を演じ続けてきたからだと思っていました。多分それもあるのだろうけど、それに加えてアナが「姉に締め出されていた」という話を聞いて共感した、少しでも自分と同じところがある人だと感じた面もあったのかも。
だからこそ、「姉だから」という理由でエルサを信じることができるアナは理解しがたかっただろうな……。たとえ長い間受け入れられていなかったとしても、アナには小さいころエルサと一緒に遊んだ楽しい記憶が残ってるからエルサを信じることができるんだよね……。ハンスとは対照的だ……。AFHで戴冠式の二人(「なんだか素敵な香りがしない?」「チョコレートだ」のところ)を少しうらやましそうにみるハンスのシーンを思い出した。

あと「とびら開けて」の後のキスシーンちょっと笑いそうになったんだけど、周りの人の反応はあれでいいのか笑
自国の王女が男の人と熱烈なキスしてるのってだいぶスキャンダラスなシーンだと思うんだけど……。一緒にいたフォロワーさんがあれで周囲に自分がアナのフィアンセであることを印象付ける意図があったのかもって言っててなるほど~となった。
後の方でまた書くけど、ところどころハンスの立ち回りがうますぎてなんなんだ……になる。

自分の国だと能力を発揮する機会が全くなかっただけでポテンシャルはかなりあったんだろうか。アレンデールにきて兄たちによるコンプレックスから解放されてようやっと本来の能力を発揮できたのかな。
同時に、抑圧されていた「男性性」のようなものも爆発したのだと思う。ハンスのいたウェストガード家は非常にホモソーシャル的で、AFHでの兄たちの言動やハンスの地の文からそれがすごくにじみ出ている。母や妻に検分するような目を向けているし、武術に優れている長男が評価されている。唯一ハンスのいじめに加担していない三男のルノーでさえ(彼がハンスにアレンデール行きを勧めた張本人)「エルサ王女を手に入れればこの国から脱出できる。女王は引きこもっていたから「男」を知らないし、お前の能力や顔があればできる」といった旨のことを言っていて、アレンデールの女王をハンスが地位を手に入れる手段として考えているのがわかります。
実際、ずっと城のなかに閉じこもっていた世間知らずのお姫様を誑かして結婚を申し込むというのは構図だけみると結構グロテスクだよな……。


さて、そんな風に自分の国だと「いてもいなくても同じ」というような扱いを受けていたハンスが王女に「ハンス王子に国を任せる」と言われたときの気持ちを想像するとおそろしい。ウェーゼルトンに対してとった高圧的な態度は兄の模倣だったりするんかな。
だから一幕終盤のレリゴー前のハンスナンリプライズ頭を抱えた。戦にもまともに出たことのない(ってAFHに書いてあった)ハンスが国を救うために兵を率いて立ち上がるの、うわ~ってなる。剣は男性性の象徴として扱われることも多く、抜き身の剣を掲げる姿は暴力的だな……と思った。
それからさっきちらっと触れた、ハンスの立ち回りがうますぎるとおもったのはここです。扇動の仕方が巧み。未曾有の寒さに震える国民にアナと自分が愛で結ばれていることを強調して、現状頼れるのは自分だけだと思わせている。さらに上手いのは、ハンスはこの場での一応の恐怖の対象(この表現が適切かはわからないけど一応)であるエルサについてネガティブなことをほとんど言わない。そういったことは全部ウェーゼルトンに押し付けている。
エルサの敵が自身の中の恐怖であったように、ここで民衆の敵、脅威となっているのは未曾有の寒さ、そしてそれを引き起こしたエルサへの恐怖。恐怖が人を扇動するのに有効なことを、兄たちから支配を受けてきたハンスはよく知っていたのかもしれない。そこまでわかってやっていたのなら本当にとんでもないやつだよ……。

 

それからはっとしたのは、氷かけているアナの前で暖炉の炎を消してしまうシーンのセリフ。
「君たちのおかげで英雄になれた」(セリフはうろ覚え)
ここ、最初の「ハンスオブサザンアイルズ」で歌われていた歌詞の回収になってるんですね。「ハンスオブサザンアイルズ」の原語詞の、「偉大な兄上たちのなが〜く続く列の端っこにいる銅像にもならない人」というのが結構好きなんだけど日本語だと「英雄になれない(ならないだったかも)」にまとめられていてちょっとだけ残念に思っていた。でもこのセリフを聞いたときにここに繋がるようにしてあったんだ!と思ってあっという間に手のひら返しました。作りが上手い……英雄になりたかったひと……ウウ……。
ところで、このシーン、ここまでうまく立ち回っていたんだからここでネタバラシしなければ最後までうまいこといけたんじゃないかって思っちゃうんだけど……。キスしてあげて、僕じゃ君を助けられない……!みたいな流れにしてなんやかんやじゃダメなんだろうか。物語的にまずいのは承知のうえで。
ん~でもここで自分の計画べらべら喋らずにいられないあたりハンスが小物たる所以なのかな~……。ウウン。


少し話が横道に逸れますが、このシーンの直後のオラフのセリフが作中一番に好きで。“Some people are worth melting for”です。このセリフ、アニメーションだと「アナのためなら溶けてもいいよ」だったのがより元の意味に近い訳(「溶けてもいい、そう思える人もいるんだよ」みたいな感じだったかな~はっきり覚えてない悲しい)になっていたのがすごく好きでした。

ハンスがしたことは許せないし全く擁護はできないんだけど、こうしてバックグラウンドを知ったうえでみるとかなり印象が変わるなと思いながらみていました。
強制帰国後の状況が絶望的すぎてそこを考えるとかなりつらい……。サザンアイルズに戻った後ハンスに手を差し伸べる人がおそらくゼロなのがなんとも。
アナの希望でハンスはサザンアイルズに送還になったわけだけど(AFH参照)、ハンス的にはもしかすればアレンデールの法で裁かれていたほうがまだ救いがあったんじゃないのかなと思ったりもしました。

 

今回ハンスを演じてらしたのは杉浦さん!2017の福岡LMの時に拝見しているらしい~んだけど覚えておらず……実質今回ほぼ初。
めっちゃよかったです……!初めの方の好青年の印象が大きく崩れないまま後半のヴィラン然としたお芝居に入っていくので、どちらの面もハンスなんだと思えるところが好きでした。ああしないといけない状況にまで追い込まれていたんだな……と思い……(明らかにキャラクターに対する贔屓目もあるが)。
メチャ好きなハンス像だったのでもう一度拝見したい~けど塚田さんハンスもみたい。次のチケットめっちゃ先だからなんもわかんないんですけどね。新しくデビューがあってもおかしくないくらい先のチケットしか手元にないです。はやくもう一回みたいよ~……。

 


つらつらとハンスのことについてお話したので作品全体についても少し。

冒頭YアナとYエルサメチャかわいくて幸せだった……。Yアナの「お空も起きてる、あたしも起きてる! だから遊ぶの!」がアニメーションそのまますぎてびっくりしました。ほんとに二人ともかわいかった……!
Yエルサのシーンでいきなりmonsterが出てくるのは知らなくて驚きました(ミュージカルのオリジナル曲だけどビッグナンバーなのでさすがにmonsterは知ってた。というか結構何回も聞いてた。好きな曲です)。 幼いころからエルサのなかにはmonsterの影がいたんですね……。
それからミュージカル版だと最初でイドゥナがノースサルドラなのをはっきり出すんですね!トロールどうするんだろうと思っていたのでトロールが部族のような表現になっていたのは納得。極寒になったアレンデールでもあの格好だったのは寒くないんだろうか。「石に話しかけるクリストフ」の場面もあの召喚の儀式をオーバーにすることで解決してたのが面白かった。
アグナルとイドゥナが波に呑まれるシーンはF2の水の記憶でエルサが水の記憶でよみがえらせた二人のシーンが重なって胸が痛んだ。

 

大人になってからのシーン、ぺーちゃんアナとしてあまりに完成されてないですかね!?アニメーションからそのまま出てきたのか!?ってレベルでアナ。超かわいいし。動作、表情、声ぜんぶで喜怒哀楽を表してて素晴らしかった……。扉あけてで例の側転のフリをしてたときはらんぺーちゃんの幻覚がみえました笑

 

幕があいてからみんながTwitterでヒュッゲヒュッゲいっててなんなんだ?と思っていたのがやっと解消された笑 要するにアレンデール版のハクナ・マタタですね!? 肌色タイツの出来がいいので最初ガチでびびった。休憩明けでインパクトが要るのはわかるけどそれにしてもすごいな……インパクト抜群すぎる……サウナのなかに思ったより人が詰まってて笑いました。
あと、オーケンさんの「人がバタバタ凍死してるノースマウンテン」みたいなセリフ、さらっとした言葉だけれどエルサが引き起こしたことの重大さを示していてハッとした。

 

その後の、エルサが作った城でアナと再会するシーンは、アニメーションよりも二人の会話が増えていてよかった。アナがアレンデールの危機を伝える前にアナがエルサの魔法を素敵っていったり、エルサがアナに自分の氷の魔法のことをちゃんと話したり。アナにとってエルサの魔法がまったく未知のもので、戴冠式で突然現れたものからエルサの言葉で伝えられたものになったのがよかったなと思った。エルサが自分で、アナを殺しかけてしまったことがあるっていうのは胸が苦しくなりました……。だからこそ、エルサは自分の危険な力からアナを遠ざけようとするんだけど、この話を聞いたアナは「自分がエルサに締め出されたのは嫌われたからじゃなかった!」となるのでさらに勢いづいて一緒にいよう!!!となるんですね。すれ違い~~……。ストーリーを予め知っていてもしんどいものがある……。けれどやっぱり二人が歩み寄る時間があってよかったよ、、、。

 

追加曲といえば、二幕の終盤、エルサ、アナ、クリストフ、ハンスが吹雪の中歌う曲にテンション上がりました。ミュオタみんな好きなやつ。

 

演出だとアナが凍るところが印象に残っています。
以前Twitterで見かけたBW版の動画だとアナに真っ白な衣装着せて本人にプロジェクション(だったと思うけどだいぶ前の記憶なので違ったらすみません)だったからマンパワーで魅せてるのみると演劇の矜持を感じてテンション上がる。

 

あとあの、神永さんのクリストフ……良すぎる……。ワイルドで皮肉屋でかっこいい……。皮肉を言うときのちょっとげんなりしてる表情がすっごい好きです!!!雰囲気やアナとの体格差含めて超よかった……。アニメーションの時から一番印象変わったキャラクターかもしれない。
それと同時に神永タガーめっちゃみたくなりました、、、なんで私はみてないんだ……(登板一瞬だったからだよ)。いつか拝見したいけどしばらくはクリストフなんだろうか。少なくとも福岡猫の間は登板なさそうですよね~……エーーーン。

 

ひとつだけど~~しても納得できないウェーゼルトンのこと。ハンスとほぼ同罪というかハンスよりひどくないですあの人!? エルサに直接だいぶきついこと言ってましたよねなんで何事もなかったかのようにフィナーレ参加してるんですか!?!?「女王陛下」じゃね~~!!と思ってフィナーレみてました。何我が物顔でそこにおるんじゃ。
フィナーレ、アグナルやイドゥナ、YエルサYアナもいたので、一種の理想の状態だったから尚どうして……と思ってしまった……。


それはそうとフィナーレ最高だった!!レットイットゴーのリプライズがフィナーレなの本当に最高。特にエルサがアナに歌う「魔法はあなたよ」って歌詞が好きです。アナは魔法をもっていないけど、ずっとエルサが苦しんでいた恐怖を溶かしてくれたアナの愛はエルサにとって「魔法」だったんですね……。とっても素敵な歌詞。
フィナーレをみながら、アナ雪ってWICのエルフィーとグリンダがもしも共に歩けたらの話のように思っていたところもあるから余計にF2のラストで泣いたな〜というのを思い出しました。あれがトゥルーエンドだったとわかっているけど……(WICがめちゃめちゃ刺さってめちゃめちゃ泣いてた人)。

 

あとは他の四季のディズニーミュージカルに比べて、作りが2.5的だなというのを感じた。観客がストーリーを知っていることを前提に作ってあるっぽいというか。
ほかのディズニーミュージカルに比べると、「アナと雪の女王」という演目は観客が映画を見たことがある率や曲への親しみ度がかなり高いのかも。新しめの作品だし。
鐘なんかはもはやアニメーションとは別の物語だし、BBとかLK、LMは「小さいころDVDで見たことがある」って位置づけの人が多いんじゃないか。というか私がそうなだけなんだけど。四季でミュージカルになってるディズニー作品で、映画館でみたことがあるのってこれが初めてだなと思った。
その辺でレットイットゴーを一幕のラストに持ってきてるのがめちゃめちゃいいなって思った!!アニメーションだと結構序盤にくるから、どうしてもいつ歌うんだろうってそわそわしちゃうし、前奏聞いたらいやがおうでもテンションがあがる。さらに「少しも寒くないわぁぁぁぁ↑」!!!最高。一幕全部のめりこませるギミックとして一番有名な曲を一幕ラストにもってくるの、原作が超有名作品だからできる手法だなと思って。
ハンスが本性をあらわにするところも、映画だとかなりドラマチックに描かれていたと思うのですがミュージカルは結構あっさりしていた印象。これも、観客のほとんどはハンスが裏切るのわかってる前提だからなのかなって思ったり。
展開でみせるよりもキャラクター同士の関係の掘り下げにリソースを割いているイメージがありました。

 

 

とにかく大好きな作品だった……。もう、早く、早くもう一度みたくて仕方がないです。半年以上先のチケットしかないつらい。日々皆さんのレポを楽しみに拝見してます。
それにもっといろんな人に見てほしいから早く気軽にチケット取れるようになるといいな〜〜!!!