ミュージカル『ヴェラキッカ』感想

ヴェラキッカ大千秋楽おめでとうございます。

1年以上の期間を開けての久しぶりのTRUMPシリーズの感想。ふせったーとかツイートとか、いろいろなところに散らばっていたから一旦纏めつつ追記してたら13,000字になってウケてる。千秋楽配信が一週間後なので見た後に何か追記するかもしれないけどひとまず。

観劇してるのは東京公演のみ。初日、19日、22日マチソワ+配信18日、22日ソワレ。最初3回くらいで満足するかな~と思っていたけど結局チケット増えたし配信も3回中2回はみました。千秋楽のやつも買うつもり。

思ったよりも長くなってしまったのでチャプター分けをした。作品全体の話と、カイくんの話と、キャストさんの話。

 

  • 作品の話

 

今回個人的にストーリー自体はそんなに嵌らなくって。曲とキャラクターに凄く嵌って劇場に行っていた感じ。偶像を愛すること、その行為で現実の辛さから逃れることを許容してくれる物語だから、その点は凄く好きなんだけれど。

TRUMPシリーズにしては珍しいスルメ型の作品だなと思った。後から噛みしめて面白さがじわじわ来るタイプ。気付いたら深みにいてチケットが増えている。私の話です。

これまでの作品って、観劇中にガツンと頭を殴られるような衝撃がきて、終わった後うわぁ~っ!!!ってなるような作品が多かった印象だけどこれは観劇後延々と考えちゃうタイプの作品。観劇直後は私はそこまで衝撃は来なかったんだけど、終わってからあそこってどうだったのかなとかあの役はどんなことを考えてたのかなとかひたすら思考し続けてしまう。あと劇場でみてこその舞台だなとも思いました。劇場空間で、一緒に共同幻想のなかに入り込むことを前提としてつくられた作品なのかなって。今回私は劇場で涙がでてこなかったし、周囲で泣いてる人のフックがよくわかんなくて首を捻っていたのだけど、その話をフォロワーさんにしたら「(泣いているお客さんは)共同幻想に取り込まれたんだよみんな」って言っていて凄く腑に落ちた。と同時に私はあの幻想の中に入ることができなかったんだなとも思いました。

 

なんだかお話のことを考えるとどうしても「それでいいの?」って思ってしまう。

初日に観終わったあとはかなりもやもやっとしたものが胸に残った。繭星のダリちゃんを観たときのもやもやに似ている。生者による死者の語り直しへの薄気味の悪さというか。この話の発端にしたって、ノラの願いが叶っているのではなくてシオンの願いが叶っているんだよね。ノラはもういないから願いは叶えようもなくて、幻想のノラはあくまで幻想のノラであるからシオンが愛したノラではなくて。ノラのためじゃなくて罪を償いたい彼等のエゴ。「みっつの罪悪感」の「この罪悪感を抱え生きていくしかないのか」って歌詞にいつも「そうだよ」って思ってました。歌の中ではいいやだめだそんなことは許されない、って続くけれど、生きているあいだになにもできなかったのならそれを引き摺って生きていくことしかできないんだよって。ノラのことに関しては、正直彼等の「罪」ではないと私は思うんだけど、それを罪ととらえずにいられないところも何らかの形で「償い」をしたいとと思うことも、全て彼等のなかでだけ完結している。

あとこれは完全に余談なんだけど、この曲どうにもタイタニックのThe Blameが重なる。男性三人のナンバーってとこくらいしか一致してないけど。あと三角形になって歌ってるとこ。The Blameがめっちゃ好きなのでバフがかかってこのナンバーも好きです。

閑話休題。そういうのも踏まえて、最後のカイくんの行動を復讐ととらえる感想をみて私はびっくりしてしまった。あれは全て優しさと善意からなる行動だと思う。少なくともカイくんにとって共同幻想は罪悪感からの解放だったから……。あの行動が「善意」であること自体がやっぱり薄気味悪いのだけど。あと、結局カイくんもシオンにイニシアチブ取られているから行動の全部が自発的なものなのかどうか信じきれないのも余白だな~と思いつつカイくんの意思かなと思います。このタダじゃ終わんない感じがいかにもTRUMPシリーズって感じはする。人間愛『奇』劇。

他にもなんでこうしなかったんだろうとかああすればよかったのにとかそういうポイントは沢山あって、でも舞台上で起こらなかったことに私たちが何かすることはできないし何かを言う権利すらないんだよな〜みたいなことをずっと考えてた。客席の私たちがどうこう言うのは簡単だけど、そうはならなかったし、舞台上で起こったことがすべてなんだよな……。シオンが取った行動も、最後にカイがシオンを幻想に還したのも、シオンがそれを受容したのも、本人たちがそれでいいならいんだもう……。シオンが幸せなら私たちが何か言うことはないのよ……。

だから初日はすっごいもやもやしたまま帰ったんだけど、「これはこういう話なんだ!」って開き直っちゃうとめちゃめちゃ楽しくなった。あ~あ!愚か愚か!って思いながら最高の曲を浴びて帰る。楽しい。

 

「実体のないノラ」の魅力をあれだけの説得力を持って描き切ったのは演劇の底力を感じて物凄く好き。脚本衣装照明舞台装置全部使って「愛されるためだけの存在」のノラを「愛さずにはいられない」と思わせる力が凄い。なによりノラを演じる美弥るりかさんのお力あってこそですね。髪色も含めてお色直しがたくさんあるから、一幕のラストの時点でこのノラも共同幻想の一部なんだろうな(そしてみんなのイニシアチブとってんのはシオンなんだろうな)というのは予想がついてしまうのだけど、どの姿のノラであっても本当に素敵で魅力的で素晴らしかった。発声は男役の声の出し方で、見た目も全然性別がわからなくなってて。性別不詳、年齢不詳でノラを演じきってくださった美弥るりかさん最高だった。

ノラの性別について結局最後まで言及されないのは、「誰もノラの本当の性別を知らなかったから」なのかな。人によって男性にみえてるか女性にみえてるかも違うんだろうな。ダンスシーンだと、キャンディと踊る時は男性パートを、カイと踊る時は女性パートを踊っていたし。その人にとっての見たい姿、愛したい姿、理想の姿にみえていそう。この性別を断定させないまま話を全部やるの、HeとかSheに置き換える必要がない日本語の強みを生かした脚本でいいなって思う。

現実のノラの性別については考えるだけ野暮なのだろうけど、それをわかったうえで言及すると男性かなと思った。TRUMPシリーズの家父長制ややきつめの世界観のなかで「女性当主」がありうるのかと思うと微妙……。ヴェラキッカ家がそういう風潮に抗っている家系っぽいのを鑑みても、もし女性だったらカイくんの母親はノラを地下牢に閉じ込めるなんて面倒なことをせずさっさとどこかへ嫁に出して仕舞えば済む話だしなあ……。シオンがヘテロセクシャルだったから幻想のノラは女性ベースだったのかもしれない。

 

末満さんが「そういうものを目指した」と言っていただけあって単体で楽しめる度が高い作品なのも好きポイントです。他のシリーズとの関連が低いから気軽に勧めやすいし私たちもフラットな気持ちで観れるし。シンプルでいい。

そのうえでシリーズ追ってきてるオタクには音楽によるバフがかかるのがおもしれ~と思いました。愛という名の呪いが流れたときはマジでここで流すな~~!!!!ってキレた。ノラが愛されたいって言ったタイミングで流すか? シオンに呪いかかっちゃったじゃんよ~~。曲名を踏まえるとシオンは最後まで呪いがとけなかったんだなあ……。

ノラの「愛されたい」で愛という名の呪い流してその言葉を思い出すシーンの「愛されたかった」でライネスなの本当に最悪。BGMひとつでここまで最悪にできるのはこれまでのシリーズの積み重ねだし演劇のギミックとしては凄いよねみたいな話をフォロワーさんとしました。

それからリリウム再演のお知らせが直前に会ったのも相まって、リリウムのアンチテーゼというか、重なる部分があるからこそ違うところが際立つと感じたところがあった。ノラの言葉が共同幻想の切欠になってしまうところとかウルの言葉引き摺って共同幻想つくっちゃったソフィさんだし。「共同幻想のなかで誰かを愛せるのか」(ニュアンス)みたいなところ、リリウムの共同幻想でつくりだした少女を「愛しているんだ!」と叫ぶソフィさんがちらついた。けれどシオンの作り出した共同幻想は皆に受け入れられているし、シオンは最後まで幻想のなかで幻想のノラと寄り添っているんですよね。対して結局少女たちを失った後「まあいいか」となってしまって孤独に戻ったソフィさん。ソフィさん……。


あと本当に曲が好き。ミュージカルにおける楽曲の力を思い知らされた。曲聞きたくて劇場に行ってた。聞けば聞くほどリズムも音程もとりにくそうで歌いにくそうな曲ばっかり。和田氏を日本のスティーヴン・ソンドハイムと称したフォロワーさんがいて笑っちゃった。言い得て妙。

曲がすっごいよかったからこそ、ブリリアだったのがほんっっっっとうに残念で。私は今回ブリリアとは初対戦だったんだけど(アンマスクドはKAATに避難したので)あそこマジでミュージカルやっていい劇場じゃない。一階前方と後方でマチソワしたとき劇場変わった?ってくらい聞こえ方違って本当にびっくりした。同じ曲を聴いても別の曲みたいに聞こえる。前評判の通り、群唱になればなるほどだめですね。初日とかヴェラキッカの一族のところでいきなりコーラスがわちゃわちゃになってたし、ハモリの下のパートがガンガン死ぬ。折角いい曲ばかりなのに……。曲をちゃんとした音で届けられないって劇場として致命的だよ……。TRUMPシリーズ、日生でできるくらいデカくなってくれ~~~~~!!!!

 

  • カイ・ヴェラキッカの話

カイ・ヴェラキッカくんについて。私が増やすつもりのなかったチケットを増やしたのはだいたい彼が原因である。

なにせ、TRUMPシリーズで初めて推しが生き残った。黑世界ですら推し*1が死んで行ってしまった私の推しがとうとう生き残った。厳密にいうと一応繭月*2も作品終了時点では生き残ってるんだけどマチネで生き残ってもソワレで燃えてたからノーカンにして欲しい。
カイくんは出てきた瞬間にああこの子は好きそうだな……と思ったのですが案の定でしたね……。末満さんの書くあの手のキャラクターにあまりに弱すぎるんだよなあ私は……。

 

とりあえず最初の感想はひたすら「可愛い」でした。いろんなところが可愛い。
まず衣装がかわいい。ダンス映えするひらひらで素敵。……って意味で可愛いって言ってたのに、フォロワーさんに床に這いつくばってるのが映える衣装で可愛いよねって言われてそんなつもりでは……となった。そこも可愛いんだけど。
ミュージカルである以上仕方がないのだけれどどれだけツンツンしていようと曲が始まればみんなと一緒にバキバキにダンスしてくれるところがとっても好きです。しかもめちゃめちゃダンスが上手い。最初のセリフが「やれやれだな」なのに直後めちゃめちゃ踊り出すの好きだし♪ヴェ~ラキッカ ジャン! でビシッてポーズとった直後すぐフンッって顔するのも好きです。22日ソワレヴェラキッカの一族の「全く!」のまえ、親指の腹で顎を擦りながら苛立ちで全身が揺れてて、それがリズム取ってるみたくみえたのも可愛かった 。


それから毎回楽しみにしていた「見下してる!」のところとシオンとのやりとり。
ここで必死に背伸びするカイくん、最初気付いたとき可愛すぎてひっくり返った。最後イニシアチブ取りに行く時も背伸びしている。あそこそんな場合じゃないのに可愛い~の気持ちでいっぱいになってしまうのでダメ。

東京後半から見下してる!のあと一回剥がされてももう一回トライするようになってたし、22のソワレなんか、いつもは精一杯背伸びしていなされて終わりなのに、シオンに先に手を突っ張られて背伸びすら出来てなかった!かわいい〜!そのあともう一回シオンの目の前まで向かってってイーッて威嚇してたかわいいね。
ところで、カイがシオンを見下しているように感じているのはシオンが無意識に母親を重ねてたまに嫌悪を見せているからとかだろうか。「先代の母君が見たら〜」みたいなセリフは最後まで見るととんでもない皮肉。まあ、「血筋で優遇されているに過ぎない」は一々言われなくてもわかっている事だろうし、そもそも家に引き取られた事実自体そうだし、皮肉も言いたくなるよね……。

初めて喋った瞬間を知ってるシオンからの「立派になったもんだ」はガチだよな。ノラとカイとシオンとジョー年齢差どうなってんだろう。シオンとカイは7~8歳差かな~と思うのですが、ジョーは引き取られた時幾つくらいだったのかな。カイくんがこの中で一番年下なのを踏まえてシオン、ジョー、カイのやりとりをみると全部可愛くて仕方なくなる。年齢差はかなり可愛いポイントですよ……。シオン・カイ・ジョーの幼馴染トリオの会話がもっと見たいよ~~!!

あとノラに「昔から!昔からっ……!」って台詞から続きを言えなくなってしまうのも可愛いな~~~と思って観ていたらゴリゴリに伏線だったので恐れ入った。カイのキャラクター的にノラの前でうまく言葉が出てこずに言い淀んでしまっているのだと思っていた……。キャラクター造形をうまく物語に取り込むのが超うまいな……。

愛の家訓の前、ノラに口元に手を添えられて(……!)ってなってるのもキュートだよ……。別に家族愛もあるんだし、弟なことと愛してることは矛盾しないんじゃないか? って思うんだけど共同幻想の主が抱いてるのが恋心だから無意識に恋愛的要素を含んだ愛を捧げるようにできているんですかね。ロビンとノラのやり取りを見てもそんな感じだったし、それならジョーがカイへの気持ちとノラへの気持ちを両立できず苦しんでいたのもわかる。

「Welcome to the Verachicca」の前にシオンに肩ガクガク揺すられてリズムとらされてるのもめちゃめちゃ好きです。ここ日に日に激しくなってって、最後の方カイくん全然首座ってなくて笑っちゃった。赤ちゃん。曲中のカイくんパートの振り付けの階段登るの?登らないの?みたいな動きも好きだし歌詞もツンツンしてて可愛いです。背中合わせで踊る所も、すごいゲンナリした顔でいやいや踊ってる感じがすっごい好きです。

あとジョーにキスされたときの反応もめっちゃ可愛い!!キスされた後、東京前半は拭うみたいに軽く唇に触るだけだったのに22日はノラが出てくるまで(なんだったんだ……)みたいな感じでずっと指で唇なぞってて大変キュートでした。あとギブギブ!みたいな感じでジョーの背中バンバンしてたのも好き……。日増しに可愛くなっていく……。 キスされてる時も当たり前に可愛いけど「気に入らないのよあなたのその態度〜」あたりの動きも言われてることが図星の自覚はあるのかぎゅって顔のパーツが全部真ん中に寄っていて可愛い……拳が震えているのも好き……。それから、キスされた時咄嗟にジョーの腰に手を回すところは育ちが出ていて好きです。終盤うわぁぁぁぁんっ!!ってなったウィンターもひしって抱きとめてあげていたので動作が身に沁みついているんですね。

Absolute fateは表情がどんどん移ろっていくのが素敵でずっとカイくんの方を見てました……。夢が醒めかけているのにノラに幻想に引き戻されて表情が段々虚になっていくのが超好き。あとノラから逃れようとして床を這っているのもいいですね。


二幕のカイくんは愚かポイントをバンバン稼いでていっそ楽しくなってくる。今回の作品、悲劇性はそんなに高くないけど愚か度はシリーズのなかでもかなり高いように思います……。

カイくんは、これまでシリーズに登場してきた貴族たちに比べればかなり人の心があるというか、「いいひと」なんだけどだからこそ貴族としては格が落ちるな……と思ってみていた。潔癖すぎる。自分のために犠牲にされた命があるという事実に対して、「それを知った以上ヴェラキッカの当主ではいられない」という反応になってしまうのが成熟しきっていないなって。ヴェラキッカの当主である以上、少なくともその時点でいろんなものを踏み躙ってそこに立っているはずなんですよね。それこそ、シオンとかはカイの存在によってかなり割りを食っていたと思うのに、それに対してきっと無自覚なあたりどうにも幼い。自分が与えられた地位や権力をあまり正確に認識していないように感じる。ノラを知っていたというシオンに「羨ましい」という言葉を投げるのだってかなり無神経だよなあ……。多分ここで「ノラのことを背負ったままヴェラキッカの当主として生きていく」という決断ができればシオンもあんな行動には出なかったのに。ライネスは、やらかしたのはシオンだけどトリガーはカイくんだもんな……。「言葉は聞いたんだろう!」が完全にシオンのトリガーになってる。噛まれる直前の台詞が「ノラは救われるのか?」じゃなくって「それで僕の罪は許されるのか?」なのが超愚かポイント高いよ~~。このままではヴェラキッカの当主ではいられないから自分の罪の清算をしたいんだよね。真実を自分で問い質しておきながらそれに耐えられなくなってヴェラキッカ当主の座から逃げようとするあたりが弱いし幼い……。

ただここで咄嗟に出た言葉が「羨ましい」だったのって、カイも本質的に孤独だったからじゃないかと思った。カイくんの母親の人物像は我々には知りえないものだけれど多分カイくんの受け取っていた愛情は「ヴェラキッカ家の当主」としての屈折したものだっただろうし。母親以外に血を分けた「年上のキョウダイ」がいたことはカイくんにとってほんの少しの希望だったんじゃないだろうか。だからカイの目の前に現れたノラは「ステレオタイプ的な貴族」の姿をしていたのかなと思います。ノラの姿は皆それぞれに自分の欲しかった愛情の形をしていたのかなと思ったりもする。みんながノラを愛するのはイニシアチブによるものでもあるけれど、自分の求める愛情の姿かたちをしているのであれば愛するのは当然なのかも。

そうなるとカイくんの母親像がなかなか謎になってくる。どういうひとだったんだろう。カイくんの前ではいい母親だったりしたんだろうか。今回カイくんの母親がどんな人物だったのかっていうのは全然語られないんですよね。「権威主義的」で屋敷の支配者として振舞っていたとしか。まあほとんど舞台機構的な登場の仕方だし、殆ど掘り下げがないのもわかるんだけど、前述の「貴族としての在り方」のようなものをカイくんに教えなかったのか?っていうのがとても疑問で。教育関係は乳母とか家庭教師に任せて自分はかかわってなかったのかな……。息子すら支配の道具としか思っていなかったのだろうか。あのTRUMPシリーズの世界で「女性当主」というのがどうにも想像しにくいからカイくんの母親はどれだけ権力を持とうと「当主代理」的な立ち位置にしかなれなかったんかな。だとすれば息子を正式に当主にして名実ともにヴェラキッカ家の最高権力者になろうとしたとか? そうもくろんでいたけれども自分の想定よりも早く体にガタがきちゃったみたいな。それだったらあまり息子を顧みなかったのも頷けるけれど。

というか、カイくんって生まれてすぐに父親は死んでいるしヴェラキッカが他と交流していなくて周囲に同階級の人間もいないから貴族としてのロールモデルがなかったのか。特級貴族が全体で何人いるかはわからないけど同じクランに特級が何人もいる状態ってそうそうないだろうしな……。

物語が終わった後、再びカイくんが当主の座にもどるのであれば、今度はきちんと踏みしめているものを理解したうえでヴェラキッカの荘園という小さな国を継いで欲しいなあ……。シオンに噛まれてシオンを噛んで、人間の一番柔らかいところを操る重たさとか責任も背負って、ヴェラキッカの当主としてあって欲しいなと思います。これは完全に願望だけれど。でも、「ヴェラキッカの街」が続いているのならそれなりにうまくやっているのかな。そうだといいな。

 

  • キャストさんの話

今回(というか今回も)脚本も曲もかなり宛書きされていたから「このキャスト陣」じゃないと出来ない作品だなというのを強く感じた。キャスティングを前提にしてつくってある作品というか、キャストが先にあって、その人がこの曲を歌うことを前提に曲が書いてあるというか。あまり再演を前提としていない。ミュージカルを書くときに再演を前提としないのって結構変わってる気がします。

 

美弥るりかさん

この作品に必要不可欠すぎて、作品の感想と美弥さんの感想を切り離すことがどうしても不可能なのであまりここに書くことがない。末満さんが美弥さんがいないと全然違う話になっていたと思うみたいなことをおっしゃっていたのが凄いわかる。美弥るりかさんあってこその舞台なので、この舞台の感想そのものが全部美弥さんに向くな……と思います。立ち姿も踊っている姿も全部美しくて思わずオペラグラスを奪われてしまう魅力があって本当に本当に素敵でした。ノラが完全に美弥さんへのあてがきだから、今後ほかの作品に出ているところはみたいけれど、TRUMPシリーズではもうノラ以外を演じて欲しくないって思ってしまった。

 

平野綾さん

まさかこんなところで初演のセリフの伏線回収があるとは思いませんでした。ハルヒ。初演映像を公開してくれたのはこういうことだったのすえみつさん!!!

今やミュージカル女優さんとして大活躍されているあーや!最後に拝見したのは……エニゴ結局みれなかったから、ブロ銃(初演)!?嘘でしょ!?ブロ銃ほぼ記憶がないから実質ベス(再演)ぶりになっちゃうんだが……。さすがに嘘でした。直近はレベッカのイヒですね。それでもだいぶ前だな……。硬柔自在なお歌とお芝居を見せてくださる印象です。コンスタンツェみれてないのがほんとうに惜しい……。

登場した瞬間にかわいい!と心を奪われました。一挙一動がかわいいキャンディ。ヴェラキッカダンスでワンピースの裾を持ち上げて踊っているのが素敵でした。「少女」を演じるのがうますぎる……繭期を抜けたばかりの女の子であることに全くなんの違和感も感じないのが凄い。それからTRUMPシリーズ作品と声の相性がとんでもなくいい。本当に夢のなかにいるかのようなうっとりとした声から、「えいえん」という言葉を発するときに少し不穏なニュアンスを持たせるのがすごく好きでゾクゾクした。このシリーズにおける永遠という単語への危うさが滲み出ている。可愛らしい声だけじゃなくて迫力のある力強い歌声が出せるのも素晴らしいです。「この愛は毒だ」のキャンディのソロが入ってくるところはメロディも相まって、ヴェラキッカ家に新しく入ったキャンディという存在の異質さ、あるいは特別さを表すようで毎度鳥肌が立つ。それから「嘘の真実」は凄まじいことさせられてんな!!と思ってました。あの曲えげつなさすぎる。全部アカペラて。平野さんの歌声とアンサンブルさんの正確無比な音感で持っている曲。すげえ~~~。あと今回ブリリアでどこ座ってもはっきり声が届いてきた役者さんの一人だったのでそのへんもさすがだ~~と思いました。

出演してくださってありがとうございますの気持ちでいっぱい。欲を出すなら別なタイプの役でも拝見したさがとてもとてもあるのでぜひ再度出演してほしい!!!

 

斎藤瑠希ちゃん

初舞台!?嘘でしょ!?初舞台!?!?!?年齢調べたら19歳で声でちゃった。逸材すぎる。

歌声の通り方が初舞台のそれではない。はっきり客席にまで届いてくる歌声で、とても好きです。お芝居も上手。最高ですね。マギーちゃん、あえてそういうキャラクター造形をしていたの思うのだけれど下の名前が出るまで特級貴族家出身だというのを一切思わせないお芝居で、あのシーンの衝撃が増すのがうまいな~って唸ってしまった。ベテラン繭期のしょうちゃんに一切押されてないのが凄い。あの二人のコンビ可愛かったし最高だった。本来なら混ざらない階級の二人が「マブ」になってんのもあの共同幻想がもたらしたものだな~って嬉しくなる。

「愛は殺意」とか声伸ばすところ超音程取りづらそうなのに完璧に歌い上げていて毎回サイコ~~って思って聞いてました。

今後もっともっとたくさんのミュージカルでみたいです!リリウムの再演にも出て欲しい!!!ミラベルまだみれてないけどD+で配信してるっぽいから早くみよ。

 

大久保祥太郎氏

プロ繭期の方。さすがシリーズ最多出演。見るたびにメキメキ実力がついてて強すぎる。

今回、若手陣のなかだと圧倒的に「芝居歌」がうまいなと思いました。末満さんのつくるミュージカルってどっちかというと歌は歌!芝居は芝居!みたいな感じで、急に歌うなと思う箇所が多々あるのだけどそのなかでもきっちり歌を芝居に落とし込んでいてそこが好きだった。特に今回、シオン役の松下さんとカイ役の古屋さんが完全に歌を歌として歌うタイプの人だったので歌を芝居にできるしょうちゃんがより光っていたように感じます。

周囲の人間が噛まれたあとの「なにやってんだよ!」はちょっと笑っちゃったけど。前も全くおんなじセリフ聞いてるんよ。

どんどんいろんなミュージカルに出てるから今後拝見する機会が増えそうで嬉しい。お芝居もお歌も強いから毛色の違う色んな役をみたいです。

 

松下優也さん

ジャックぶり!今回のキャストさんの中だと直近で拝見してる作品が一番新しい方でした。アンダーソン本当に本当によかったので今回も拝見できるのをとっても楽しみにしてた。

めちゃめちゃ好きでした。特に「小さな恋」は直前にシオンが語った自身のなかの自己矛盾ごと現れて、ロマンティックな曲なのに苦しげだし切なさが滲んていて素敵だった。それから複数回観劇すると一度目とそれ以降で一番印象が変わる役ですね。二度目はシオンに注視していた人が多いんじゃないだろうか。一番最初の登場曲でみんなの視線を追うようにさまよわせていたり、キャンディのパーティの前の「カイ、シオン」というノラの呼びかけにぽかんとした顔をしていたり、二回目で気が付く細かい芝居が多い!!! 一体あの共同幻想が何年続いていたのかは私達には知ることができませんが(とはいえそう長い期間ではなさそう)、その期間「ノラがみえていない」ということを露呈させずに立ち回れていたのだろうなと私達が納得してしまえる優秀さに説得力をもたせられるのも凄いです。致命的なミスがあったらイニシアチブでなんとかしてたのかもしれないけどあんまりそういうことしなさそう、というか最初の命令以外にイニシアチブ使わなさそうだし。ソフィさんと違って……。シオンの無差別大量口咬シーンは普通にしんどそうでこっちもしんどいんだけど狂乱前のアンジェリコ様もあんなかんじだったのかなと思うともっと苦しくなった。

あとちょいちょいあざとい所作が多くてオメー……ってなってた。小さい頃から自分が「かわいい」という自覚のあるキャラ造形のシオン・ヴェラキッカ、なんなんだ……。実際シオンって後妻が健康だったころは全然立場弱かっただろうから、屋敷の中に味方を増やす意味で人好きのする挙動が増えたのかもと思います。アンダーソンの時と同じくひとの「中身」のところの柔らかい部分を見せるお芝居が凄く似合うし上手。シオンは台詞だけを抜き出すと結構乱暴な物言いをしているんだけど、松下さんのお芝居であの優しくてそれゆえに苦しそうなシオンが出来上がっている。凄く魅力的な造形になっているなと思います。

今になってめちゃめちゃサンセット大通り観れてないのが悔しくなってきた……アンダーソンもシオンも上部だけは取り繕いながらなかみのくちゃくちゃになってるところをみせてくれるのがよかったからジョー(サンセットの方)も絶対よかったよね……………松下さんの声でサンセットブルーバード超聞きたいからもっかいやってくれ~~!!!

カテコダンスを虚無の表情で踊ってたのが怖かったんだけど、あれは演出なのかご本人の役が抜けてなかったのかどっちだろう。

 

古屋敬多さん

完全にはじめましての方です!マドモに出演されてたんですよね。ブリリア経験者。

今回古屋さんの役にハマるとは一切思わず観に行ったのでダークホースでした。カイくんを只不器用なだけでなく愛されるふうに演じてくださってありがとうございます。

なんといってもダンスが素敵だなって思いました。お手本のような正確無比なダンスをされるので、それがカイくんの気質にぴったりで素敵です。最初に拝見した時からダンスナンバーでは自然と目で追ってしまっていた。

発声がミュージカル発声じゃないからちょっと声になれるのには時間かかったかも。1789のときのりょんくんもそんな感じだった。特にソロナンバーの「言葉ではたりない」については、おそらくご本人のお声とブリリアの相性が良くないんだと思うんだけど、初日は歌詞がぜんっぜん聞き取れなくてこまった。翌週にだいたい同じくらいの席に座ったらだいぶ聞こえるようになってたので音響改善してくれてたのかな。このソロナンバーは完全に「再演を前提としない完全な古屋敬多氏への宛て書き」という感じがしてテンションあがりますね。ミュージカルナンバーのつくりじゃないもん。急に英語入ってくるし。「愛を歌い上げないのが反対にカイらしい」という和田さんの曲作りのお話をきいてありがとうございます……のきもちでいっぱいになりました。古屋さんの少しハスキーなお声も相まって、本心をなかなか口にできない、ノラが死んでしまってからようやっと「愛していた」って言葉に出来るカイくんにぴったりな楽曲になっているなと思う。

 

愛加あゆさん

実は拝見するのがマリゴぶりです。その前はブロ銃。あーやと同じくエニゴで観る予定だったのにな~~の方です。公演中止なのでどうしようもないけれどいま改めてみときたかったなあ……が募る。エニゴ……。

観るたびお歌がパワーアップしていきますね。「この愛は毒だ」でえげつない高音を担当させられていてびっくりしてしまったし、初日、「愛して、愛して、愛して」のところの最高音が「愛加あゆの声」としてはっきり客席に届いてきて凄かった。

ジョー本当に可愛くて……あゆっちが演じるTRUMPシリーズの役はみんな好きなんだけどジョーも例にもれず大好き。「裏腹の水掛け論」の最後、あなたのことが……で声を震わせるのが可愛くて、素敵ですね……。あと今回も噛まれるんかなって思ってみてたら案の定噛まれたので笑ってしまった。脅威の噛まれ率100%。

ぜひとも今後もTRUMPシリーズと末永くよろしくお願いしたいです。末満さんと和田さんが離さないと思うけど。

 

宮川浩さん

毎度毎度歌で殴ってくださるので今回もお歌に関しては流石のひとことなんですけれど今回お芝居が凄くよかったな~~~って思いました。登場人物みんな愚かだけどロビン特に愚かで、宮川さんのお芝居でそれが光っていた。シオンに「噛んでくれ」って懇願するシーンとかめちゃめちゃ愚かでテンションあがりました。

あと「みっつの罪悪感」も、楽曲とお芝居の両方で聴かせてくれる感じで凄くよかった。あの曲宮川さんのお歌で凄くバランスが良くなっていて好きです。あの曲凄い好き。松下さんのお声も古屋さんのお声も甘い声ををしているから宮川さんの重たい声が重なることで曲の深さ一気に増して素敵です。その辺含めてThe Blameぽいっておもったんかなあの曲。

 

西野誠さん

マリーゴールドの時よりも声の伸び方が増していて「まだうまくなるんだ!?!?!?!」って衝撃が来ました。もともとあんなにうまいのに伸びしろがあるの恐ろしい。やっぱり四季在団時からボーカルキャプテンを担当されていたり、いろいろなところで歌唱指導担当をされていたりするだけあって、和田さんのつくるえげつないリズムの曲を見事に歌い熟されているの強いなあと……。身の程ソングあんなに気持ちよく歌い上げてるけど冷静になって聴くと超リズム取りにくそうだし歌いにくそう。

西野さん出て来るだけで舞台が華やぐし面白くなるし大好きです。早く繭期大夜会で「身の程を知れ小娘!」のコーレスができる世界になって欲しいよ。

 

 

今回、いろんな人の感想読んでいるといつも以上に感想も受け取り方も人によってばらけていて凄い面白いです。どこで泣いてるかとか誰にキレてるかとかも全然違う。これだから楽しいよな~~って思います。

とりあえず目下の悩みは千秋楽配信用にiPadを購入するか否か。折角ならスマホじゃなくて大きい画面でみたいし、これを機に買ってしまおうかな……。

*1:それぞれアイダとノク

*2:言わずもがなアンジェリコ