潤色作品としては好き―ミュージカル版韓国Equalレポ感想

韓国のミュージカルEqualの初日(12/31)と1/2の二回分をみたのでその感想です!

最初の方は作品構成とかの話ですがほぼネタバレしながら話すのでご注意ください。

 

そもそも演目自体が大好きなやつだし、以前から友人とEqualは絶対にミュージカル映えするからミュージカル化してほしい。できれば韓国でしてほしいという話をしていたので、発表時から大変楽しみにしていた作品です。二人ミュージカルの演出に強い韓国。

私のEqual鑑賞歴は以下のような感じ。

赤坂版▷観劇三昧で映像を鑑賞

ワタナベ版▷DVDを鑑賞

朗読劇版▷2ペア(小林・田中/植田・松井)配信 2ペア(染谷・細貝/碓井・納谷)劇場で鑑賞

女性版▷今月下旬に劇場で鑑賞予定

京都Equalはレポだけ読んで「怖」って言った。韓国のストプレ版は写真だけ漁ってた。こうして書きだすとEqualっていっぱい上演されてますね。

 

作品全体としてはEqualそのもののミュージカル化というよりもEqualという戯曲を読んでそこから受け取った解釈のひとつをミュージカルにした印象。かなり大胆にがっつり潤色してある。わかりやすく言うとEqualの二次創作っぽかった。

楽曲数はリプライズ込みで15曲。同じく二人ミュージカルでだいたいおんなじくらいの上演時間のスリル・ミーが18曲ストーリー・オブ・マイ・ライフが17曲なので妥当な曲数かなと思います。結構一曲が長いのあったしね。

再構成に当たって時代設定・舞台設定がはっきりと再定義されていたのはかなり良かった。原作Equal、良くも悪くもそのへんふわふわしているので。特に舞台がヨーロッパっぽいのに聖書のくだりで「昔本で読んだことがある」なのはまずいだろと思っていたからさすがにその部分はちゃんとしてた。

 

冒頭の映像面白かったですね。時代背景が一発でわかるのでいい。

各曜日に英語のサブタイトルがついているのですが、それが各章のメインナンバーの名前のようですね。章タイトルがでるのはSOML*1っぽいなって思った。

 

月曜日「cause I know you」

ニコラが待つ家にテオが返ってくる所からスタート。テオがペストマスク被ってるの、17世紀ヨーロッパなのが手っ取り早くわかるしかっこいいしいいじゃん~って思ってたら後半での伏線としての働き方が良すぎて素晴らしかった。あの町結構田舎っぽいから誰か知らないひと(あるいは死んだはずの人間と同じ顔をしているひと)がいたらすぐに露呈しそうだけど、マスクのお陰でばれない。面白い。

M1は開幕直後割とすぐにスタートします。このM1が月曜の表題曲っぽい。「君を知っている僕僕を知っている君」みたいな歌詞がありました。月曜はこの曲とそのあとの短めの芝居のみでかなりサクっと終わる。M1がかなり長いんだよねボイパ(?)っぽいのもしてるし。あそこはアイドルさんの方のキャストだとさらに映えそうだからそっちのキャストさんでもみてみたい。この曲は「君がいるから頑張れる/君がいるから寂しくない」的なことを歌うけどまあ要約すると君僕僕君ってことだなと思って聞いていた。歌い終わった後の会話で「火刑場」という単語がでてきたのがいかにも魔女狩りが行われていた17世紀ヨーロッパっぽくってよかったです。パンが月曜から登場するのは描写が細かくていいな。

「僕は医者で君は患者だ。医者は患者を治すのが仕事、患者は医者に治されるのが仕事」(うろおぼえ)(患者じゃなかった気がする)みたいなセリフはそのまんま出てきてテンションあがった。アドリエンヌさんの名前さん出てきたときも同じく。知ってる台詞が出てくると嬉しくなる。反対に、「君はよくできたやつだな」に該当する台詞がなかったのは少し物足りないところ。

オデットの設定変更はちょっとびっくり。ここを変えた理由が最後までみてもいまいちよくわからなかった。

月曜ラストに早速M1リプライズがあったのはいいぞいいぞってなりました。Equalは「繰り返す」話だからリプライズはあればあるほど楽しい。

 

火曜日「our magic spell」

ニコラが日記を書くところからスタート。17世紀だろうなとは思っていたけどここで1665/5/12って明言される。1665年というと、イングランドでロンドンの大疫病と呼ばれるペストの大流行が起こった年らしい。

M2 ニコラが日記に書き込みながら歌う曲。ここ初日は最初の数フレーズの後字幕が消えてしまったのでオデットへのラブソングかと思って聞いていたのですが、再配信時に聞きなおしたらテオに向かって歌っている曲だったので怖かった。「完璧な友達」というフレーズが繰り返される曲でこの後二回もリプライズがある。結構大事な曲だった。

その後のM3はオデットからの手紙。序盤随分ふわふわしたことを言っているし内容の割に曲調が明るいな~と思っていたらテオが「不幸な結婚生活に落ち込んでるんだよ!」的なことを言い出してそういう解釈になるんだ?って思った。その後昔の思い出の曲になったからそんなに曲調とのずれは感じなくなったけれど。The Fire Fire Fire Fireのところ、なんかちょっと面白くなってしまった。後ろの映像も派手だし。

思い出話の流れから、謎の石をとりだすニコラ。昔水車小屋のブランディーという猫を助けようとして「儀式」をした思い出をオデットからの手紙で思い出したという。その後に歌われるM4がおそらくこの章の表題曲でしょうね。二人が使っていた呪文の「OS SANGUNIS CARO」「ANIMA CORPORI RESURRECTIO」はラテン語で「骨・血液・肉」「魂・身体・復活」みたいな意味っぽい。「失いたくないものを取り戻すとき」にしていた儀式らしいので、なるほどね?錬金術に突如として傾倒したのではなくて幼いころからそういうことに興味があった二人なんだな。

火曜はM5(M2リプライズ)のニコラソロでおわり。何かを調合しながら「テオは完璧な友達」って歌う曲。ここではまだ後半の変更ポイントを知らなかったので同一人物だもんね~フフフと訳知り顔でみていた。

 

水曜「golden human」

テオがやたらとテンションが高くてかわいいなって思ってたら、テンションが高かった理由が「ニコラを助ける方法が見つかった!」だったのでよりかわいいなってなった。

M6の錬金術の曲は曲入りがかなり意外で、不思議な曲だと思って聞いていた。途中で曲調が変わった後のメロディが好きです。特に最後二人が別々のメロディを歌うところ。ミュオタみんな好きなやつ。

ミュージカル版の賢者の石は原作よりも随分立派ですね。「僕はこの石ころに誓う」「そんな石ころなんかに誓うな」がただの石ころじゃなくなってる。

M7 マリエッタ大好きソング。ひたすらテオが楽しそうで好きです。原作よりかマリエッタに脈がありそうなテオ。一緒に告白しよう!はやばいけど。でもそれよりもニコラが小さいころ人気者だったって部分が意外でした。こっちのニコラはジェルマンにいじめられてなかったのかな……など考えていましたががっつり伏線だったね。ニコラのほうが立派なお医者さんだったという設定。

M8 ふたたびM2リプライズ。今度は「完璧な友達」のところじゃなくて「大丈夫」の部分をメインで繰り返している。「完璧な友達」が疑問形になっているのが不穏だしこの時手に持っているのが失敗作を処分するための薬だとわかると恐ろしい。

 

木曜日 Why did god

夜遅くに酔っ払いテオが上機嫌に帰宅してくる。「酒臭い酒臭い!」の名残が残っているのが伺えます。

M9 ニコラがカラスを捕まえてくるとこから入る曲。ニコラの病状の悪化が視覚的にわかりやすくされていて、この後の展開の危機感も増す。ニコラがとカラスを捕まえててきた意味合いもだいぶ変わっていた。飛べない鳥と狭い部屋から出られない自分を重ねて持ってきた風にしてある。ただこのあたりのニコラの台詞がどこまで本心なのかが読めない。早く自分から離れろ!と歌うのはそうすれば余計にテオが自分のところにいるだろうと思ったからなんだろうか。ニコラはテオに一貫性がないのが問題だと歌うけれどニコラもずいぶん一貫性がない。テオの罪悪感に付け込んで傍にいさせようとしているのかな。ホムンクルス同士の記憶を受け継いでいくなかで、この世界のオリジナルの「テオ」の「ニコラを失いたくない」という気持ちが現在の「ニコラ」の方に引き継がれていると仮定すると考えやすいかも。

M10 木曜表題曲。聖書の内容から入る曲。この曲は、少々唐突な感じがするものの、歌詞や曲調が作品の世界観にとても合っていてかなり好き。「いつまでこの営みを続けるのだろう」とか「もしかしたら僕は一度打ち捨てられた世界に生きているのかもしれない」とか、まさにEqualの世界を表している曲で、聞いていて楽しかったです。

 

金曜日 Theo’s breakdown

いきなりド直球なタイトルが来たなと思った。

このマリエッタ殺害事件についてはニコラが首謀したとは明言されないんですね。その前の「あなたはだれですか」の下りがないからわかりにくくないかって思っていたらそもそも「テオが偽物だと気づかれたから殺す」という前提がなかった。ただ、このニコラにとってマリエッタはテオを失ってしまう可能性になりえるから十分排除する対象にはなりえるんだな。テオを失いたくないが動機になりえるニコラだから……。直接手は下していないけど陥れたのはニコラかもしれない。

M11 M4リプライズ。儀式でマリエッタを生き返らそうとしたところからテオの意識が混濁していく。テオが壊れたのをぐちゃぐちゃの音楽で表現するの、テオの頭の中がそのままのぞけるようで好き。何も知らないでみたら多分シンプルに怖い。

 

土曜日 lies of lies of lies

金曜日の終わりから地続きで始まる。ここのテオがアドリエンヌさんに聞いた昔病院にいた優秀なお医者さんの話、原作を知っているせいで謎だったけどオリジナルのニコラの話をしていたんですね。

M12 M3のオデットの手紙の曲リプライズからの転調!!!たのしい!!!!!!!ここ一番テンション上がったかもしれない。「ニコラが死んだ」という事実をオデットからの伝聞にするのではなくて、手紙で明かすからこそ火曜日と同じ状況、同じメロディを使えるのギミックとして素晴らしい。原作を知らずにみていたらこの転調の部分で凄い鳥肌立っただろうなと思います。ただ、直後「オデットに会った」という話が出てくるので、じゃあなんで手紙?ってならなくもない。手紙が届くのとオデットがテオのところに来るのがほぼ同時だったのかな。

このあとの、「君はテオなら僕はなんなんだ」「君はニコラだよ」の部分はえ????ってなってしまった。正直、ここは変えたらだめなところじゃない?って思いました。原作Equalの「もう一人のテオ・ホーエンハイムだ」というセリフが登場したときの頭をガツンと頭を殴られるような衝撃が好きだったので……。それにこの改変だと二人はEqualになり得ないとも思った。

でもM13の土曜の表題曲で明かされる、二人はどちらも偽物で、もう50年以上この実験は続いているというふたつめのフックが面白かったので納得した。どちらもホムンクルスならちゃんと二人はEqualだった。1613年という年号がでてきて、オデットはもうおばあちゃんという歌詞を聴いたときは原作とまた違った衝撃があって楽しかったです。

 

日曜日 the dream

月曜日の最初と全くおなじやりとりからスタートするところは原作通り。

M14 日曜の表題曲に登場する「赤い海」は、水曜日にニコラが話していた赤い海と同じかなと思ったけれど、ニコラの方は普通に湖の話をしていたらしいですね。ニコラにも無意識に胎児だったころの記憶が残ってたのかと思った。

湖に行こうみたいなくだりで「日差しを浴びると~」って台詞があったけど日差し浴びたらニコラ死んでしまわない?という疑問はあった。胎児の頃(生まれる前)に戻る=二人で死んでしまおうかという解釈もできなくはないかな~と。胎児の頃に戻るが故の誕生日、とか。原作Equalとはまた別の余白の残る終わり方かなあ。原作の方で残されていた余白は埋められているけど、こちらに委ねる部分は委ねてくれている。

M15 最後の曲はM1のアレンジリプライズ。一番最後の曲が一番最初の曲のリプライズなのはこの作品的に最高の終わり方だと思った。

 

 

全体を通して。

最初に言った通り原作Equalのなかのひとつの結末を選んでミュージカルとして再編成したというのが一番しっくりくる感想。Equalってかなりラストの解釈の幅のある作品だと思っていて。それに気が付いたのは朗読劇版を観たときだったのですが(ストプレ版は観たまんま片方が片方を殺して生き残ったという受け止め方しかしていなかった)。

あくまで私が受け取った感想だけど、例えば朗読Equalの碓井・納谷ペアは「どっちももともと偽物だったし、最後は両方とも死んだ」って終わり方の印象をうけた。反対に染谷・細貝ペアを観たときは「しれっと両方生き続けているしたまに入れ替わって遊んでる」何の解決もしていない終わり方だなって思った。

だからミュージカル版の二人は原作の二人が何年も実験を続けて続けて辿り着いた成れの果てだと解釈すると面白いな~なんて考えたりした。こうした原作を知っているならではの楽しみ方ができるのは楽しいなと思う。

やっぱりどうしても「テオとテオ」から「テオとニコラ」に変わったのは原作を好きな人間としては残念に感じてしまう部分ではあるのだけど、潤色作品としては面白いしありかなあと。上記の解釈で進めるのであればオデットのこともこの二人の関係のことも「長年実験を続けたことによるバグ」だったら面白いなんて思ってしまう。

あとバックに流れてた映像の演出について、配信だったから気にならなかったけど多分現地で観ていたらちょっとうるさいだろうなと思った。もう少し控え目でもいい気がする。

結局タイトルが言いたいことの全部ですね。潤色作品としてはとても好きです。

楽曲は良かったし、小道具の使い方とか演出もそこそこ好きだったし、ぜひとも日本でも観たいから逆輸入頼むよ~という気持ち。

 

最後に、もし原作版Equalみてない方がいたら観劇三昧でみれるからぜひみてね!という宣伝だけ。

v2.kan-geki.com

あとこっちも潤色されてるっぽいけど今年の1/19~23に女性版equalが上演予定でまだ劇場チケットもあるし配信もあるらしいです。こちらも楽しみ。

『Equal~イコール~』 のチケット情報 - イープラス

*1:ストーリー・オブ・マイ・ライフの略称 Equalと同じ二人ミュージカル